今、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのビジネスが麻痺している。中でも、飲食業界の実情は深刻と言える。3密の回避要請は、飲食業を直接的に否定していると言っても過言ではない。無論、この新たなるルールは、自分自身と大切な人たちの安全を守るうえで、理にかなったものであり、遵守すべきこと。この相反する“行き場”の板挟みの中で、ドンドンと過ぎる毎日は、徐々に飲食業に関わる人たちを疲弊させ、また胸に秘めた“志”を蝕んでいる。今回、こうした悲壮感に満ちた状況下、望ましい未来に向けて苦慮を重ねる、結婚式場:ザ・チェルシー 代表取締役 住田 浩 氏に、お話を伺った。



早速ですが、新型コロナウイルス感染症により、ザ・チェルシーさんの業況はいかがでしょうか?
住田:2月下旬頃から、ご結婚式の延期を検討したいというお声を徐々に耳にするようになってまいりました。また、ご宴会とご宿泊においても、ほぼ同時期からキャンセルが相次ぐようになりまして、緊急事態宣言以降、一気にそれは加速しました。結果、4月、5月のご予約は皆無に等しいという状況にあります。



キャンセルや延期というお客さんには、どのような対応をなさっていますか?
住田:やはり、平常時とは異なりますので“コロナ対策期間中”として、キャンセル料は“実費のみ”のご請求という形にさせていただき、とりわけご結婚式については、挙式日の15日前までならば、何度でも無料で延期の対応をさせていただいています。また、新郎新婦様の空虚感が、わずかでも拭えますよう、ご希望により当初ご予定されていた挙式日に実質無料で“プレ挙式”をプレゼントさせていただいております。

それは新郎新婦さんに寄り添った素敵なご対応ですね。因みに現在の業況下、スタッフの皆さんは休業に入られて、縮小営業をなさっているとのことですが、会場の見学などは可能でしょうか?
住田:もちろん随時承っております。ただ、おっしゃるように縮小営業をしておりますので、ご見学の際には、ご予約を頂戴した方が、よりスムーズにご案内をさせていただけます。



そうした中、スタッフの皆さんのモチベーションも気がかりになるのでは?
住田:ごもっともです。婚礼業界は飲食業界の延長線上にあると私は認識していますが、飲食業に関わる方々は、「人に尽くして、人の役に立って、人を喜ばせたい」という想いが、人一倍強い人の集団であると思っておりますので、そうした想いを叶える機会を取り上げられたり、ましてや社会との接点を失うと、喪失感に襲われると懸念しています。ですので、ココロまで感染しないように、「自分を見失わないでいて欲しい」とスタッフには伝えています。つまり、目の前の「現象」に惑わされずに、“なりたい自分”や“在りたい姿”といった、その向こう側にある「本来の目的」や「夢」から目をそらさないこと、「自己実現への想い」が色褪せないように、ココロを強くしておくことが大切だと思います。



住田社長は、アフターコロナをどのようにイメージなさっていますか?
住田:様々なご意見をあちこちで伺いますが、ビフォーコロナそのものには、もう戻れないとイメージしています。もうすでに、コロナを受け入れるべく、色々な変化が見え始めていますが、アフターコロナでは、お客様の価値観とともに“働き方”や“接客の在り方”にも、変化が生じていると思われます。例えば、教育では一部のオンライン化、医療では遠隔医療の規制緩和、買物ではネット通販ユーザーの増加、飲食ではテイクアウトやデリバリーの一部常態化などの変化が考えられます。このほか今回をきっかけに、テレビ会議が定着してくれば、ビジネスパーソンの出張回数は減少して、公共交通機関はもとより、各出張先のビジネスホテルや飲食店さんの売上にも影響が出ると思われます。



なるほど。事の大小は別ですが、それらは確かに考えられることですね。そうやって、時々刻々と変わりゆく状況をにらみながら、委縮するばかりではなく、どういった「今」を過ごせばいいとお考えでしょうか?
住田:大切なのは「転んだら、起きた先で何をするのか?何ができるようにしておくか?」でしょうか。が、やはり一番は、泥水を飲んでいる今の経験が“バネ”になるように、今の“惨めさ”や“虚しさ”を忘れないことでしょうか。愛情と時間と知恵と予算を注ぎ込んで得た「御予約」が、目の前でドンドンと溶けていく事実を目に焼き付けておくこと。一方で、お仕事がいただけている平常時に麻痺することなく、お客様がいてくださることへの感謝の念をもう一度胸に刻み直すこと。いざ失ってみないとちゃんと立ち戻れない“初心”。アフターコロナを迎えても、決して「喉元過ぎたら熱さを忘れる」にならぬように、コロナショックからの学びを大切にしなければと思います。



そうやって、アフターコロナへ向けての思考や施策のストレッチを進めると共に、アフターコロナにも引き継がれていくものは何だとお考えですか?
住田:私は生まれも育ちも高松市ですが、幼少の頃はお祭りや子供会でのラジオ体操や獅子舞などのイベントや、ご近所の方々との“助け合い”や“祝い合い”などの交流、いわゆる“ご近所付き合い”という関係性を色濃く感じていたことを記憶しています。このことは「顔見知り」という「輪」となって、相互援助の期待できる“安心感”につながっていたように思います。ところが、時を経て、近所の方々の転入や転出、新興住宅地の波及などによって、そうした“ご近所付き合い”は、徐々に希薄になってきました。とは言え、この変化によって、ご近所同士がお互いを知り過ぎて、ある意味で監視し合うような、窮屈な感覚から抜け出すことができて、他人の目を気にしない「自由な暮らし」を手に入れられるようになったのではと思います。しかしながら、そんな時代がしばらく続いた頃、数回に亘る大震災や水害によって、「つながり」や「絆」の大切さを再び見直す機会が生まれたことは、未だ記憶に新しいと思います。飲食業界が、食を通して人のココロに“潤い”や“豊かさ”を提供する「リアルコミュニティ」は、こうした世の中の人々のココロの動きにあって、決してなくなるものではないと考えています。何故ならば、世の中の人と人との関わり合いがドライになっていけば、孤独感が溢れて、連帯感が希薄になってくるのは火を見るよりも明らかです。もちろん、様々な形のオンラインコミュニティも台頭してきていますが、体温を感じる「リアルコミュニティ」が、この世から姿を消すことはなく、例えそうなったとしても“ご近所付き合い”と同じく、再び人はそれを求めて“在り方”を巻き戻すと思うからです。因みに、ご結婚式は新郎新婦様それぞれのコミュニティの交差点であり、規模やスタイルは変われども、尊い文化として引き継がれてゆくものだと確信しています。



私自身も記憶をたどってみれば、確かにそんな時代の変遷があったように思いますね。こうした「ないものねだり」にも似た想いで、人は浮遊しながら、時代に即した“自分らしい居心地”を探しているのかもしれませんね。では、最後に、その「リアルコミュニティ」を上手くライフスタイルになじませていくうえで、大切なポイントをお話いただけますか?
住田:ズバリ、現在縮小しつつある“アナログコミュニケーション”の活用でしょうか?対する“デジタルコミュニケーションツール”であるフェイスブックやライン、ツイッターなどによって、情報は手軽に、素早く、精度よく伝えられるようになりましたが、一方で“フェイスtoフェイス”のコミュニケーションは希薄になってきました。つまり、コミュニケーションにおいて、“情報伝達”は進化してきましたが、“感情伝達”については後退してきたという、言い換えれば“効率”を求めるがために“潤い”が置き去りになりつつあるのでは?ということです。因みに絵文字は感情伝達を補完するものですね。

墨をすって、筆先を整えて、想いを込めて書き綴られた手紙に温度が有るのは、書き手の手間暇を感じ取るからです。例え、ボールペンでも“手書きのお手紙”が、ホッコリするのと同じです。いつの世も「利便性と温もり」は背中合わせだと思います。例え「どこでもドア」ができても、列車に乗ったり、駅弁を食べたり、宿に泊まったり、道中に出逢う人たちとの対話を楽しむという旅路が、悦びであり、思い出であり、それが“旅の醍醐味”を構成しているのと同じです。これは、会食のシーンでも同じで、コロナショックによってZOOMなどでの“オンライン飲み会”が、重宝されて騒がれていますが、3密を回避するという、やむ得ないルールと目新しさが手伝っているだけで、例え新しくて手軽な飲み会のスタイルとして地位を得たとしても、到底これからの飲み会のスタンダードになるものではないと思います。やはり、人が集い、語り合って、共にかけがえのない時を重ねて、記憶していく事が“ココロの温度”を上げて、「リアルコミュニティ」を育んでいくという、感情伝達のシーンであって、それが私たち飲食業界、婚礼業界の役割であり、使命であり、存在価値だと私は思っています。いずれにしても日本人がココロのすき間を埋めようと「絆」を強めたり、拡げたりする“場創り”に携わっていることは、価値ある未来とつながっている素敵なことだと思います。結婚式では、久々に逢う仲間と語り合うことで、自分の立ち位置や役割を再認識できて、勇気と元気を得て、時として犯罪や鬱病を食い止める事につながるかも知れません。これは大きな社会貢献です。飲食業界は、人と人との接点をより良い環境に整えながら、そこから連鎖的に拡がりゆく地域社会文化に大きく関与しています。私たちザ・チェルシーも、四国香川の老舗結婚式場として、こうした責任を果たしていければと思っています。そんなことを強く思いながら、今のこの苦境をグッと堪えて、再びお客様に多くの「幸せキブン」を提供できる日が、一日も早く訪れることを願っております。



私もアフターコロナに向けて、「リアルコミュニティ」に上手く合流できるように、「アナログコミュニケーション」の振り返りをしておきたいと思います。本日は、長時間にわたり大変ありがとうございました。
住田:こちらこそありがとうございます。本日は、あくまでも私の主観でお話をさせていただきましたので、偏ったお話になってしまったかもしれません。失礼がございましたら、お詫び申し上げます。